大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和30年(行)19号 判決 1958年5月20日

京都市中京区六角通麩屋町東入

原告

田島清子

右訴訟代理人弁護士

小林為太郎

同市中京区室町三条中京税務署内

被告

中京税務署長

黒田篤太郎

右指定代理人

麻植福雄

北島繁夫

山口修

清野輔

山田秀一

平井武文

右当事者間の昭和三十年(行)第一九号相続税審査決定取消請求事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の訴はこれを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二九年二月二三日付でなした昭和二七年分相続税課税決定中、大阪国税局長の審査決定により維持された部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求の原因として、

(1)  原告は肩書地において煙草小売業を営むものであるが、昭和二七年四月四日訴外永島正道から別紙目録記載の物件(以下本件物件と称する)を金二〇万円で買受け、その代金は原告の右営業の収益をもつて支払つた上、同年一二月一六日その所有権移転登記を了した。

(2)  然るに被告はこの事実を原告が原告の夫である訴外田島万蔵こと茂蔵より本件物件の贈与を受けたものであるとして、昭和二九年二月二三日原告に対し課税価格を金六六万九千四百円。その税額を金一六万五千八百二〇円。無申告加算税額を金四万一千二百五〇円とする旨決定した。

(3)  そこで原告は被告の右決定を不服として同年三月二二日付で被告に対し再調査の請求書を提出したところ被告からその方式の不備を理由として右請求書の補正を求められたので、同年五月二八日被告に対しこれを補正した不服の理由書を提出した。被告は原告の右補正により前期同年三月二二日付請求書をもつて適法な再調査の請求があつたものと認めたに拘らず再調査の決定をしないままにこれを訴外大阪国税局協議団に廻付し、訴外大阪国税局長は右協議団の協議の結果に基き昭和三〇年八月一七日付をもつて被告のなした前記決定の一部を取消し課税価格を金一七万九千円その税額を金三万五千八百円、無申告加算税を金八千七百五〇円とする旨の審査決定をした。

(4)  然しながら、被告及び大阪国税局長の右各決定はいずれも前記(1)の事実を誤認した結果に基くものであつて違法であるから、被告の前記決定中大阪国税局長の右審査決定により維持された部分の取消を求めると述べ、立証として甲第一乃至第四号証、第五号証の一乃至四、第六号証の一及び二、第七、八号証、検甲第一乃至第四号証を提出し、証人光岡浅夫並びに同藤井邦尚の各訊問を求め、乙号各証の成立を認め乙第四及び第八号証を利益に援用した。被告指定代理人等は、本案前の答弁として主文同旨の判決を認め、その理由として、被告は訴外大阪国税局長の審査決定の後に至つて、原告が昭和二七年一〇月中に本件物件の外になお訴外田島万蔵から京都本局第四八〇六番の電話加入権をも贈与されている事実を知つたので、昭和三〇年一二月七日右電話加入権の取得時の時価を金三万円と評価し、これと前記審査決定により維持された本件物件の時価金四九万九千円との合計額金五二万九千円から控除額金三三万円を控除して課税価格を一九万九千円とし、その税額を金三万九千八百円、無申告加算税を九千七百五〇円として本件決定を更正し、即日その通知書を原告に送達した。従つて原告が本訴において取消を求める昭和二九年二月二三日付課税処分は右通知書による更正によつて当然消滅したものであるから本訴は訴の対象を欠き不適法である。と述べ、本案について、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として原告主張の請求原因(1)及び(4)の各事実はいずれもこれを否認し、同(2)及び(3)の各事実はこれを全部認める。

本件物件は昭和二七年四月四日頃訴外田島万蔵が訴外永島正道から買受けてその所有権を取得した後、これを原告に贈与し中間登記を省略して右永島から原告に直接所有権移転登記をしたものである。

然るに原告は右物件の課税価格が金一〇万円を超えるに拘らず正当な事由なくして申告期限である昭和二八年二月末日までに被告に対し相続税確定申告書の提出をしなかつたので、被告はその取得時である昭和二七年一二月における本件物件の時価を調査した上、本件物件中宅地を金二三万一千円、建物全部を金五五万六千円とそれぞれ評価した外原告が同時に訴外田島万蔵から贈与を受けた家財道具等の動産の時価を二二万二千四百円と評価し、以上の合計額金九九万九千四百一七円から基礎控除額金三〇万円及び少額控除額金三万円を控除しこれに法定の税率を乗じて原告主張のとおり昭和二九年二月二三日付の課税決定をしてこれを原告に通知した。これに対し原告から再調査の請求があつたがその補正等に日時を要し被告が右請求に対する決定をしないうちに三ケ月を経過し相続税法第四五条第三項第二号の規定により訴外大阪国税局長に対し審査の請求があつたものとみなされるに至つたので同国税局長は同国税局協議団の協議の結果に基き、本件物件中宅地についての被告の評価は相当であるが、建物は火災によつて損傷を受けその中店舗の二階の部分は修繕を必要とする状態にあるのでその減価を二分の一と評価しまた前記動産については贈与の事実は認められないとして、右評価に基く本件物件の時価金四九万九千円より前記決定と同様の各控除額を控除しこれに法定の税率を乗じて原告主張のとおりの審査決定をした。

尤も右審査決定において計算上の誤りから課税価格が金一七万九千円とされており正しくは金一六万九千円であるけれども、右の誤りは被告が前記更正に際して訂正した。従つて被告の前記決定中右審査決定によつて維持された部分については何ら違法の点はない。と述べ、立証として乙第一号証、第三乃至第八号証、第一〇、第一二号証及び第二、第九、第一一号証の各一乃至三を提出し、証人佐々木康介、辻孫治、塩見宙の各訊問を求め、甲号各証及び検甲号各証の成立を認めた。

理由

被告が原告に対し昭和二十九年二月二十三日付で原告が本件物件を原告の夫である訴外田島万蔵から贈与を受けたものであるとして課税価格を金六六万九千四百円、その税額を金一六万五千八百二〇円、無申告加算税を金四万一千二百五〇円とする旨の課税決定をしたこと及び訴外大阪国税局長が同国税局協議団の協議の結果に基き昭和三十年八月十七日付で右決定の一部を取消し、課税価格を金一七万九千円、その税額を金三万五千八百円、無申告加算税を金八千七百五〇円とする審査決定をしたことはいずれも当事者間に争がない。

そこで被告の本案前の答弁について判断するに、成立に争のない乙第九号証の一乃至三及び乙第一〇号証によれば、被告は前記課税の決定及び審査決定の後昭和三十年十二月五日に至り、原告が昭和二十七年十月三十日前記訴外人から京都本局四、八〇六番の電話加入権の贈与を受けたことを理由として、右電話加入権の取得時における時価を金三万円と評価し、これと前記審査決定により維持された本件物件の時価金四九万九千一七円とを併せ、改めてその合計額金五二万九千一七円を標準としこれから基礎控除額金三〇万円及び小額控除額金三万円を控除して課税価格を金一九万九千円とし、その税額を金三万九千八百円無申告加算税を金九千七百五〇円とする再決定をして前記課税決定を更正し、同月七日付書面をもつてこれを原告に通知したことが認められる。

而しておよそ課税価格及び之に伴う税額の更正は、単に当初の課税決定に脱漏した部分のみを追加するに留らず、当初の決定の後に調査の結果判明した事実に基き改めて課税価格を決定し、更にこれを基準として課税額等を決定するものであるから、右の更正があればこれによつて当初の課税決定は当然消滅するものと解すべきである。そうすると本件において、被告の原告に対する昭二十九年二月二十三日付課税決定中大阪国税局長の前期審査決定により維持された部分も、被告の右昭和三十年十二月七日付通知書による課税価格等の更正によつて既に消滅しているものといわなければならない(最高裁判所昭和三十二年九月十九日第一小法廷判決参照)。従つてこれが取消を求める原告の本件訴はその対象を欠くものであるからこれを不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加藤孝之 裁判官 中島恒 裁判官 中川臣朗)

目録

京都市中京区六角通麩屋町東入八百屋町一〇四番地の一

一、宅地 四二坪三合

二、建物 家屋番号四番

木造瓦葺二階建店舗二〇坪 外二階一六坪(但し二階の部分は焼失)

右附属木造瓦葺平家建便所 一坪一合

同土蔵造瓦葺二階建倉庫三坪 外二階四坪

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例